2023-12-24#考え方#読書

なぜ商売っ気を出すと売れなくなるか?

尊敬していたインフルエンサーや同業者から商売っ気を感じると、急に引いてしまうといった経験はないだろうか?

最近になってようやく界隈でバズっていた本『欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア』を読み、モヤモヤ考えて言語化できずにいた本テーマを、ようやく文章にすることができそうなのでチャレンジしてみる。

『欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア』はルネ・ジラールという思想家の考えをよりわかりやすく起業家の口から語られた本である。

ルネ・ジラールのミメーシス理論

書籍の内容について軽くご紹介する。

我々が何者かになりたい、何かが欲しい、と望むとき、その欲望は実は他人の欲望を真似た産物であるというのがミメーシス理論の主な内容になる。

私たち人間は赤ちゃんの頃から真似が上手であり、真似ることでできることを増やし、他人の欲望でさえも真似ながら成長しているという考え方である。

また、大人になるにつれて、真似ている自覚がなくなるというポイントもある。

例えば、自分の憧れの起業家が「エンジニア出身で、通常はスーツで行くようなところでも、みすぼらしいパーカーなどで登場する」といった行動を取っていたとする。

そうすると、自分自身がその欲望を模倣し、スーツが嫌いな論理的な理由も原体験もないはずだが、スーツはダサい、カジュアルな格好でフォーマルな場に行くのが今風、などと周囲に主張するようになる。しかし、自分は誰かの真似をしている、という自覚はないし、他人から「憧れの人を真似しているの?」と言われても認めたがらないというような状況がある。

モデルは隠されているときにもっとも威力を発揮する。もし誰かに夢中になってもらいたいものがあれば、その欲望は自分自身のものだと信じさせる必要がある。

真似る目的は、真似そのものではなく、自分の差別化にある。ほかの人と比較してアイデンティティをつくろうとしているのだ。

私たちはモデルがないものは欲しがることができない。将来のために選択するモデルは、欲望の形成を左右する大きな影響力を持っている。

といった感じだ。

C 向けサービスを運営していると、これは非常によくわかる感覚である。人は真似たいモデルを見つけると、何らか言い訳をつくりながら模倣していく。

売る難しさと物語

私が運営する theLetter は、個人の書き手が執筆を通じてビジネスを行うプラットフォームである。しかし、書き手ユーザーの利用開始ニーズは様々かつ複雑で、お金を稼ぎたいからという単一の理由だけで開始する人は少数派だ。

theLetter がもし法人向けサービスだったらもう少しシンプルかもしれない。大雑把にいえば法人には、コストを下げたいか、売上を上げたいかのどちらかのニーズに貢献できればよい。

しかしながら個人のユーザーは利益を上げるという目的で必ずしも開始していない。

YouTuber にしろ、インスタグラマーにしろ、発信を頑張る目的は様々かつ複雑で、しかもフォロワー数や反応の数によって欲望が変化するパターンだってある。

最初は暇つぶしだったが、フォロワー数が多くなってきて、情報発信自体でマネタイズできないとモチベーションが続かなくなっていく、など。

そうした複雑な背景があり、クリエイターやインフルエンサーたちはフォロワーに対して「商売をするだけの説明」を求められる。それが商売をさらに難しくさせている。

「フォロワーが多くなって無料で情報を出し続けるのがアホらしくなってきました。収益化します。」みたいな説明ではフォロワーが離れてしまう。

「もっとこんなことやりたい!それはフォロワーの皆さんにも有益だ。」だとか「今継続するだけで私はこんなにコストを支払っている。継続のためには収益化が必要なのです。」だとか、そうした物語がクリエイターにとってもフォロワーにとっても必要なのである。

企業が利益を出すのは社会的に合意が取れているが、個人が運営する SNS アカウントが利益を上げるのは多くの場合合意が取れていない。そのため、収益化にはフォロワーが納得するだけのストーリーがもとめられるのかもしれない。

そのことが度々摩擦を起こす原因にもなるし、収益化自体のハードルにもなっている。

収益化について最も自然に始められるのが Google AdSense 等による広告だが、そのクリエイターの影響力が増すと、結局は物販・企業案件・サブスクなどのビジネスを開始することになる。

また、物語でフォロワーを納得させた場合、一度始めたことを辞める時にも物語は必要になる。

商売っ気を出すと売れない

クリエイター・インフルエンサーなどの個人がインターネットで商売を行う際、気をつけなければならないのは「商売っ気」である。

「お金のためにその発信をしているんだ」ということがフォロワーに少しでも悟られると、フォローを外されたり、最悪の場合炎上にまで発展してしまう。そのため、商品販売等の収益化に関するコミュニケーションは最新の注意を払って行われる。

しかしながらクリエイター・インフルエンサーたちが収益化している or する必要があることなんて、誰だって頭ではわかっていることである。それでも、今日から収益化します!と宣言されると引いてしまうのがフォロワー感情だ。

この感情について、これまで私の中で納得いく言語化ができないでいた。そこにミメーシス理論が飛び込んできたわけである。

なぜ商売っ気を出すと売れなくなるのか。

これをミメーシス理論の観点からいえば「欲望のモデルから外れるから」だといえるだろう。

私たちは

といったモデルを信仰している。

そしてそういったモデルを模倣し、次のインフルエンサーが生まれる。自分の好きなことを突き詰める(= 欲する)人の欲望を我々は模倣したくなるのである。

インフルエンサーの欲望は、我々の次の欲望である。

その構造の中で、商品を売りつけようとしてきたり、一部の人しか得られない情報に値段をつけてきたりするとどうだろう。多くの人は商品を売りつける人になりたくない。私たちが模倣する対象から外れてしまう。

多くのインフルエンサー・クリエイターは、フォロワーの欲望から外れない形で収益化を行う必要がある。

商売人よりスターに私たちはなりたいのである。

おまけ:個人が利益を第一に置くと

収益化において人々の欲望のモデルを意識しなければならないこと以外に、個人の商売を難しくさせているなと感じることがあるので、あとがき的に書いておく。

企業はコストを削減しながら売上を高める方法を模索しなければならない。ただし、その時間軸には様々なシナリオが考えられ、コストを一時的に投下し、数年後の利益を最大化することもまた一つの戦略である。

しかしながら、個人であるクリエイターやインフルエンサーは、売上を上げるためにコストを投下しにくい。広告費を何百万円も使う個人なんてほとんど聞いたことがないだろう。

そして従業員もほとんどの場合いないので、自分の時間だけが投下できるリソースであることが多い。

そうなると、利益を高める方法はほとんどの場合、コストを削ることにある。

単価の低い案件を断る、楽にコンテンツを量産できるようにする、などである。

そのため、個人が利益の最大化を追うと、クリエイターの影響力の源泉でさえある「コンテンツ制作」で楽しようとしてしまうことが多い。

利益を意識しすぎると、フォロワーにいかに喜んでもらえるか?いかに面白いコンテンツをつくるか?よりも、いかに楽にコンテンツをつくれるか?に考えがシフトしてしまいがちである。

長くの間活躍できるクリエイター・インフルエンサーには利益よりも情熱を突き詰める能力があると思う。

そして私たちは「利益より情熱を優先する欲望」を欲し続けるのである。

参考


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