2023-12-09#考え方#マーケット

人はコンテンツにお金を払うか

広い意味でのコンテンツクリエイター、およびその周辺の方々(編集者やマーケターなど)に接していると、

といった声がよく聞こえてくる。

なぜ人はコンテンツに払わなくなったか?を考えていくと、少しおかしな構造に気づいた。これを言語化しておきたいと思い今回筆を取った。

この問いを考える前に、そもそも人は製品にお金を払っているのだろうか?

扇風機にお金を払っているか? → Yes.

万年筆にお金を払っているか? → Yes.

化粧水にお金を払っているか? → Yes.

どうやら我々は - 本当は製品そのものではなく、その製品を通して得られるものが欲しいにせよ - 製品に対して直接お金を払い、手に入れているようだ。

そしてその製品はたいてい競合製品がある。競争のおかげで安価な製品ラインから高級商材まで様々あり、値上がりしたり値崩れしたり忙しない。

しかし、クリエイターがつくる文章・音楽・映像作品はどうだろう。

本はどのような内容にせよ似たような価格、音楽は CD や iTunes で同じ値段、映画はどんな長さでどんなキャストが出ていても映画館でのチケット料金は変わらない。

コンテンツに金銭的価値があるのなら、なぜマットレスやコーヒーミルのように価格競争が起きないのだろう?

印刷物・コピーに対して私たちはお金を払う習慣がないのかもしれない。

複製と流通

洗濯機やイヤホン、猫のトイレなども在庫に限りがある。製品ラインで大量生産されたものこそあれ、在庫を増やすためには原材料等への投資が必要である。

しかしオンライン上で消費できる文章・音楽・映像作品や収録された Podcast 等はそれはない。それらは最初にコストがかかり、世に出してから原価を支払うことはほとんどない。

では我々がコンテンツにお金を払っていると思っていたとき、実際は何にお金を払っていたのだろうか?

印刷物・コピーをつくるコストがゼロに近い場合、我々はどうやら「流通」に対して価値を感じるようである。インターネット上のブログ記事のように、無料の流通網に乗っていれば誰もお金を払わない。ペイウォールがついていれば一部の人は仕方なくお金を払うだろうが、9 割以上の人は払わない。

音楽業界は CD というパッケージが手に入る流通(レコードショップ等)を抑え、Apple は iTunes Store という流通を抑えた。映画業界も上映される流通(映画館だ)を絞り、出版業界も全国の書店という出版 ~ 顧客接点を抑えることでお金を稼いだ。

私たちはコンテンツにお金を払っていたのではなく、そのコンテンツの流通網へのアクセスにお金を払っていたのであった。

本が売れなくなったのではなく、流通網が変わった。

音楽が売れなくなったのではなく、流通網が変わった。

ということである。

音楽マーケットを示す下図がわかりやすい。IFPI の Global Music Report 2023 の音楽産業の総収益の推移グラフである。

Ski_chart_2022_1_e33cecaf7d.png

赤色の Total Physical はざっくり CD やレコードを示し、緑は Apple の iTunes Store のような DL 商品、ターコイズブルーはストリーミングを示している。

音楽は売れていたわけでも、売れなくなったわけでもなく(マーケットは V 字回復している)、流通のプレーヤーが赤 → 緑 → ターコイズブルーと、流通プレーヤーが変わっただけという見方ができると思う。

なぜ人はコンテンツに払わなくなったか?

という問いは間違いで、

人はコンテンツにはお金を払っていない

という前提認識が必要である。

こういった考え方は別に目新しいものではない。William J. Baumol の「The Economics of Superstars(1981)」はコンテンツの複製と流通のコストが技術進歩によって大幅に低減するため、あるコンテンツの価値はその製作コストよりも流通コストの方が大きく影響するといった内容を発表している。

古い論文ではあるが、むしろこの流れはインターネットによって加速している。

つまり、その時代で流通を握るプラットフォームが最も富を得るということである。Apple、Spotify や Netflix がそうだ。

コンテンツホルダー・クリエイターの出口

では、コンテンツを集めることでマネタイズしているコンテンツホルダー(パブリッシャーなど)や、コンテンツそのものをつくるクリエイターたちが対価をきちんと受け取ったり、流通を握るプレイヤーのように儲けるにはどうすればよいか?

という問いが出てくると思う。

私個人としては、以下の 4 つの選択肢があるように思う。

  1. バリュー商品にする
  2. 流通をつくる
  3. 複製コストのかかる商品にする
  4. 複製コストはゼロだけど、そうじゃなく見せる

1. バリュー商品にする

コンテンツ自体にお金は支払われないが、コンテンツを通して得られるものをなるべく人間の本能に訴えかけるものにするとお金が払われるということがある。

モテ、エロ、金儲け、悲惨な事件やスピリチュアルなもの、占い、仕事術などだ。

直接価値を考えやすい(お金を払えば oo になれる)ものをコンテンツに載せると、コンテンツ自体にお金が支払われるようになる。

例えば単品記事を売ることができるnote株式会社の上場申請時の有価証券報告書「事業等のリスク」において

当社は、多様なカテゴリーのコンテンツから収益を獲得しておりますが、第10期事業年度の売上構成比率において、競馬等の公営競技や、ビジネス・投資・IT等といったユーザーの経済的利益に直結しやすいカテゴリーに係る流通総額はより比重が高いものとなっております。

とあることからも、バリュー商品にするという選択肢は広く取られていることがわかる。

2. 流通をつくる

プラットフォームを目指すということ。

これは出版社やアーティストやレーベルやクリエイターを目指すのではなく、ソフトウェア企業を目指すということである。

あなたがエンジニア起業家でない限り、おすすめしない。

本気でつくろうとするならば、今の SNS や Google、Spotify や Netflix 等と競合することになる。

3. 複製コストのかかる商品にする

人はなぜか、触れられないデジタル商品を過小評価し、触れられる物理的な商品を過大評価する。

私は持っていた物理本をすべて PDF 化し、新規で買う本はなるべく Kindle 版を購入しスマホで読書するタイプだが、「やはり本は紙じゃないとダメ派」の人を電子書籍派へと説得できた試しがない。

デジタル版としてだとお金を払う価値のないものを、印刷してキレイな額縁をつけるだけでお金を支払う価値になる、という事例は枚挙にいとまがない。

デジタル上でいつでもどこでも子どもたちの写真が共有・保存できる「みてね」は、なぜか複製コストのかかる「印刷(フォトブック等)」でマネタイズしている。

4. 複製コストはゼロだけど、そうじゃなく見せる

おそらく世の中にあまり出ておらず、有望な選択肢になるのはこの 4 つ目の選択肢だと思う。

デジタル上の製品なので複製コストはゼロに近い。しかし、売る体験等を全く新しいものにし、在庫が限られるように見せる仕組みはもしかしたら可能かもしれない。

インターネットが生まれてからずっとこのビジネスモデルが生まれていないことを考えると、

など、新しいバズワードとの掛け算を考えたり、あなたの専門分野との掛け算を考えるとよいかもしれない。

情報のロングテールは成立するか

言いたかったことはここまででだいたい述べ終えた。

ここからは情報のロングテールという私個人のテーマについて、あとがきのような形で考えを残しておこうと思う。

これまでの出版含む多くのコンテンツホルダーは、べき乗則に従ってビジネスを展開してきたと思う。1 ~ 2 割の作品が全体の 8 ~ 9 割の利益をもたらしているという構造だ。つまり、言い方は悪いがヒット作品がほとんどの商業的駄作のコストを支払っているような形である。

そして私は以前『メディアビジネスのロングテール』で書いたように、情報のべき乗分布の尻尾部分を長くすることで、ニッチで深い情報もオンラインに残すインセンティブをつくれるのではないかと夢みている。

ただ、書いてきたように、コンテンツがコンテンツである限り、この夢を叶えるには流通を取るしかない。しかし、この夢を考えたときに私を不安にさせるのは、デジタル完結である限りロングテールをつくるインセンティブはやはりないのかもしれないということだ。

ロングテールという言葉が流行する際、よく事例に上がったのは Amazon の EC サイトである。もちろんヒット商品はたくさん売れる。しかし Everything Store の名の下に、年に 1 個しか売れないような商品でも際限なくたくさん出品することで、尻尾をどこまでも長くし、テール部分の合計がヒット商品を上回るという構造を Amazon は作り出しているのである。

しかしながら、Amazon はオンラインサービスとはいえ、扱っている商材は「複製コストのかかる」商品なのだ。

私が考えているのは複製・コピーのコストがほぼゼロの「情報」という商品である。そのため、ビジネスとして成り立たせようとすると、どうしても流通を握る必要がある。

べき乗分布にしたがった場合、流通を握る運営者にとって、ロングテールを大きくするインセンティブはどうしても少なくなる。

芸能人の不倫や結婚ニュースで、(ややニッチだが)重要なジャーナリズムが埋もれてしまうのである。各ニュースメディアも PV のとれる記事にネタやリソースが寄ってしまう。

この問題はスタートアップの聖地アメリカのシリコンバレースタートアップでさえ、現状誰も解けていないはずだ。

引き続き、1 ~ 4、あるいは 5 つ目、6 つ目のアイデアを考え尽くし、情報のロングテールをいかにオンラインに実装するか、ソリューションを考えたい。

参考


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