2020-05-20#マーケット

今日の出版

出版業界は縮小している。

2019 年の紙の出版物の売上は前年比 4.3% 減の 1 兆 5,432 億円で 15 年連続のマイナス。一方、電子書籍は伸びているんだけど、ほとんどがコミック。電子書籍市場の 89% はコミックなのだ。

20 年前と比べて書店数がほぼ半減した。私たちの周りにある書店は 20 年前は 2 倍もあったのだ。

そーいえば私も Amazon 以外で本を買ったことはほとんどない。

悲しい事実だが、人々は美しい小説やエッセイを読むよりも、ゲームや動画、映画やドラマに時間を割いている。ちょっくら総務省の発表資料を読んでいれば明らか。

人々の 1 コンテンツあたりの平均消費時間は短くなってきており、映画よりドラマ、巻販売より単話売り、TikTok の興隆などの動きからそれは読み取ることができる。

10 分の動画を誰かに観てもらうだけでも大変なのに、読了まで 4 時間ほどかかってしまう書籍に時間を使ってもらうことはとんでもなくハードルの高いことだと言える。

今の時代、人を何かに数時間拘束するなんて本当に難しいことなんだ。短時間でできることが多すぎる。ゆえにゆっくり本を読んで知識を得る習慣を持っている人なんて人口の 15% もいないんじゃないかな。これはテキトーだけど。

とにかくスマホはスマホ内だけで注意力を削ぎまくる。通知もくるし、調べ物をしているときに気づけば他のアプリを開いている。

出版業界は小説系の市場縮小とコミック系の市場拡大を見て、小説界隈への投資を減らしていることだろう。

私は出版社の編集部に勤める編集者複数人へのインタビューを実施した。出版社の中には、原作小説ではなく、コミカライズ版のみの版権を取りに行くという流れもあるそうだ。原作小説:コミカライズ版 = 1 : 10 ほども売上規模が変わってくる場合もあるという。

また、コミックは小説に比べて新人発掘が非常にしやすいという側面がある。マンガ原稿はひと目見た瞬間に良し悪しが判断できるからだそう。50p 読むのもそこまで時間はかからない。

一方、小説は数千字読んだだけでは才能を見抜けないと編集者たちは言う。その証拠として、マンガ系の編集部は持ち込みを許可したり、マンガ家と編集者のマッチングサイトがあったりもする。しかし小説の新人発掘の場はほぼコンテスト一択といった状況だ。狭き門だよね。

コンテスト以外だと「小説家になろう」などのブックマーク数を稼ぐことが最も近道だが、異世界モノというジャンルが限られてしまう。その他の web 小説サイトは書き手ばかり溢れていて、読み選が少ないと言われている。

「note」についても、小説やエッセイ界隈は書き手同士で読み合われている。

web 上の投稿サイトはどうしても投稿頻度が命となるし、長文すぎると読まれない。短くて引きのあるコンテンツを投稿しなければ読まれないし、フォロワーをどんなに集めても書籍化の声はかからない。ここでもコンテストがほとんど唯一の作家になる方法だといえる。

小説の書籍は読み切り巻売りのため、「note」の小説が上手いからといって、190 p ほどのページ数を書いた時に、面白く読み切れるものとは限らない。

そして、小説やエッセイというのはバズることが難しい。動画や画像(イラスト・マンガ)と違い、それが面白いモノだと分かるまでカロリーがかかる。書籍の難しさはそこにある。楽なものに人は流れていく。。

一方で小説は原作として優れている。文字だけなので情報量が少なく、想像の幅が広い。そのため音楽をつけたり映像にしたり、イラストやマンガにしたりしやすい。メディアミックスの源泉となれる。

そんな小説やエッセイのマーケットを縮小させたくなければ、何かやり方を変えないといけない。とすると下記の 2 点の方向性があると思う。

  1. 新しい小説の読み方を発明する
  2. 小説の流通の仕方を変える

1 についてはサクサク読めるチャット形式にした小説フォーマットが一時期関心を呼んだが、現状マーケットの数字にはなかなか出てきていない。ホラーというジャンルとは相性が良かったみたいなんだけど。

最近はオーディオブックが結構来てて、オーディオブックを YouTuber とかに配ってリアクション動画を作ってもらう、みたいな施策も流行ってたりする。

自分もぼんやり考えているけど、思いつかないね。

2 については、つまりバズりやすくできるフォーマットってないのかな、という話。Twitter 上では 140 字小説、なんてものがたまにプチバズを起こしていることもあるけど、小説の認知・購買には何の効果もなさそう。

140 字の代わりに、画像 4 枚仕込めばより読ませられる文字数は増えるけどね。まともにやってもつまんないはず。

出版社 - つまり出版業界の投資家 - が投資をしないとなると、それはもうニッチにやっていくしかない。ニュースレター形式か、note 上でうまくマガジン販売していくのかは分からないけれど。ニッチで、だけど確実にファンは数人いる領域で、面白いものを書ける人は月額数百円払ってくれる人を 1,000 人弱集められれば生活の良い座布団になると思う。

数万部売って原稿料と印税 10%(10% 未満が多いだろう)をもらうか、定期更新の有料メディアで着実にニッチな層に向けて売上の 85% ~ 90% を稼ぐ物書きを続けるか。

本当は解決策とセットでこのニュースレターを書くつもりでした。それができればどんなに良いだろう、ということで投稿を渋っていたんですけどね。

最後に、私の大好きなマーケットデータを貼って終わろうと思う。Spotify って元スタートアップ企業が 2008 年にできてから、音楽業界は下り坂を脱した。

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Spotify は上記グラフの青い帯の Streaming って市場を盛り上げて業界を救った。

こんなグラフを作れるサービスを出せれば良いな。

音楽は今も聴けるし、アーティストも生まれ続けている。

私たちの愛している小説やエッセイはどうなっていくのでしょう。

小説に限らず、テキストメディアは思考にとんでもなく向いていると思う。今後もそんな素晴らしいものとたくさん出会いたい。もう少し、1 と 2 について真剣に考えてみようと思う。

自分のリサーチで得られたインサイトの共有をどんどんやっていきたいと考えています。起業家という職業柄、そういったインサイトを蓄積しておきたいですし、このエッセイがきっかけで繋がりが生まれたり議論が生まれたりするといいなと考えてます。


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