2020-04-13#マーケット

なぜ今、ニュースレターなのか? ~ 注目経済脱却の夜明け ~

私は注目経済に根をはる多くのコンテンツにうんざりしています。また、個人クリエイター向けのサービスを作り続けているということもあり、なぜ今 Substack というニュースレターサービスが注目されているのかについて、個人的に考察を落とすことにしました。

「注目経済」というのは、あまり日本語だと馴染みがないかもしれません。

ハーバート・A・サイモンという経済学者が最初にこのカテゴリに言及した人とされており、 Attention economy という英語で知られる用語です。

情報が豊富な世界において、情報が豊富であるという状態はそれ以外の何かが不足していることを意味する:情報が消費される目的は何であれ、何かが不足しているということである。情報の消費は、受け手の注意力を消費するということである。したがって、情報の富は注意力の貧しさを生み出し、注意力を消費するかもしれない過剰な情報源の中でその注意力を効率的に配分する必要がある。(Simon 1971, pp.) 日本語訳は私(itaru)

注目経済学では、

という前提に立ち、それをどのようにフィルタリングして適切に配分するか、ということに焦点が当たります。

Attention economy という言葉の使われ方を見る限り、注目経済という言葉はそのようなフィルタリングの副作用に警鐘を鳴らす文脈で登場することが多いです。

このエッセイでは、「注目経済」を

情報資産の消費活動の適切な分配を目指した結果、コンテンツ自体が注意力を引きつける要素を帯びなければならなくなった社会

として記述していきます。

タイムラインの発明

Facebook や Twitter に代表されるようなタイムライン機能は、注目経済を助長しています。

大量のトランザクション × その人の明示的な興味(フォロー)という要素によって、タイムラインはパーソナライズされています。

ジェンダー論に関する記事と猫が交互に流れてくるタイムラインもありますし、タトゥーの彫師さんのポートフォリオ投稿と健康料理を紹介する栄養士さんの投稿が混ざることもあります。

通常そのようなプラットフォーム提供者は、注目をいかに途切れさせずにタイムラインを見続けてもらえるか、ということに注力しています。

ユーザーの滞在時間が広告在庫につながっており、その枠の販売が彼らの商売なので、人々の注目を途切れさせない事に集中しています。

プラットフォームからしてみれば、コンテンツの良し悪しは「多くの人が注目するかどうか」で決まります。

個人のマネタイズ化

インターネットとコンピュータには、国しかできなかったことを企業でもできるように、企業にしかできなかったことを個人でもできるように、エンパワメントしてきた歴史があります。

Amazon のような EC サイトを個人が Shopify で作れます。クラウドファンディングのサービスを使えば個人がお金を調達することができます。Medium に記事を投稿すれば個人ライターが収益を上げられますし、Spotify に音楽を TuneCore を利用してディストリビュートすれば、レーベルを通じずとも個人の音楽アーティストが売上をあげることができます。

そのような、個人へのマネタイズ手段の提供によって収益を得るモデルは、Enterprization of Consumer, あるいは The Passion Economy というマーケットに属すると言われています。

各々が自分のマネタイズチャネルをすぐさま持てる時代になり、タイムライン式の何らかの投稿サイトはそういった個人の新規顧客獲得の場、あるいはそれに繋がるブランディングの場になりました。

Medium はそうした個人のマネタイズ化を、タイムライン式の投稿サイトで実現しようとしました。Medium 創始者のエヴァン・ウィリアムズは、Blogger や Twitter の創始者の一人でもあるので、Medium を生み出したのもうなずけます。

Medium は、有料記事を書くことができ、月額会員になるとそれらが読み放題になります。そして、その月額会員から集めた収益をライター達に分配します。

分配方法は Clap と呼ばれるボタンが押された回数に応じて分配するというモデルになっており、Spotify がアーティストに再生回数に応じて収益分配するモデルと類似しています。

タイムラインとサブスクリプションモデル

インターネットとコンピュータは個人へのエンパワメントの歴史だと前項でも言いましたが、昨今大きな変化が訪れています。

インターネット上に、毎日あらゆる情報がアップロードされます。それは多くの商品を同じ棚に載せて比較されるという側面を持ちます。

Amazon や楽天、ZOZO などの EC サイト大手は、製品を並べていろんな要素で絞り込みながら比較・検討できます。

カカクコムなどの比較にフォーカスしたサイトもあります。

モノを売る側からすると、そんな大量の商品の中から選ばれるためには、

上記のどちらかが少なくとも必要になってきました。

それを満たすモデルとして、サブスクリプションというビジネスモデルが注目されるようになりました。D2C と呼ばれる概念が注目されているのも、上記のような流れがあるからかなと個人的には理解しています。

その流れから、誰でもサブスクリプションモデルで自分の作品やブランドが販売できるサービスが出てきました。Patreon や Medium、日本であれば note が代表です。

Medium の課題

ライター個人がサブスクリプションモデルで収益化できる Medium は、実態として広告モデルからなかなか脱却できずにいるように見えます。

少し Medium のことを検索すると、

Why I’m Leaving Medium

上記のような記事が出てきます。ふむ。

サブスクリプションモデルは毎月定額課金をユーザーから受けるものなので、クオリティの高い作品の供給をされ続ける必要があります。そして、そのクオリティの高い作品と相性のよいユーザーのマッチングに命をかける必要があります。

その成功例が、今のところだと Netflix だと思っています。ハイクオリティの作品が次々追加されるスキームと、それを高精度でマッチングするアルゴリズムに注力しているからです。

Medium において、コンテンツを供給するのは個人のライターたちです。マッチングのアルゴリズムには注力しているでしょうが、コンテンツクオリティを握るのは Medium からするとほぼアンコントローラブルなライターたちです。

Medium は古くから広告モデルで親しまれているタイムラインを、サブスクリプションモデルに持ち込んでしまいました

最初の項で、タイムラインを運営するプラットフォームにとってのコンテンツの良し悪しは「多くの人が注目するかどうか」で決まる、と記述しました。

多くの注目は多くの広告在庫を創出するからです。

しかし、広告モデルでいうところのコンテンツの良し悪しと、サブスクリプションモデルでいうところのコンテンツクオリティは別物かなと考えています。下記の図にまとめてみます。

https%3A%2F%2Fbucketeer-e05bbc84-baa3-437e-9518-adb32be77984.s3.amazonaws.com%2Fpublic%2Fimages%2F5294fa47-d8cb-4bef-8f0e-46a7c8ee4aca_1280x670.png

あくまでこの図は傾向にすぎないと思いますが、刹那的なバズを生むフローコンテンツで成り立ちやすいタイムライン型の広告モデルと、良質なコンテンツがストックし続けるサブスクリプションモデルの違いは肌感でも分かるかと思います。

Medium は、各クリエイターに良質なコンテンツをストックしていってもらうはずが、1 つのバズ記事が多くのトラフィック、すなわち注目在庫を奪ってしまう広告モデル的な登り方をしてしまったため、MAU は伸びるがマネタイズに困る、という事態を招いているようです。

Why Medium Doesn't Matter Anymore | Forbes

少々前の記事ですが、Medium は大規模なレイオフやオフィス縮小を行っています。

ライターたちは少しでも注目を引くために、大げさな言葉や釣りタイトルの設定、サクサク読める短めの文量調整、できるだけ多くの人に該当するネタ選定、などをする必要がありました。

結果、注目経済が Medium 内でも蔓延ることになり、ライター離れが相次いでいるようです。

フォローという曖昧な概念

サブスクリプションモデルは LTV を最大化させるために、チャーンレート(解約率)を低く保つ必要があります。

それは、個人の場合も同様です。

しかしながらタイムライン型のビジネスは、「フォロー」という機能を採用しています。最初の項で、

大量のトランザクション × その人の明示的な興味(フォロー)という要素によって、タイムラインはパーソナライズされています。

と書きました。明示的な興味を示すために「フォロー」はありますが、

というような、見ても見なくても良い、みたいな曖昧な概念でファンと繋がることになります。ファンとの繋がりを保ち続けなくてはならないサブスクリプションモデルと相性が悪いのは明白です。

ライターとしても、ファンを囲い続けにくいプラットフォームは使い続けたくないでしょう。

注目経済脱却の兆し ~ Substack ~

ライター向けに、サブスクリプションモデルを提供しようとする流れが Medium でできましたが、課題が出てきました。

それをニュースレターという切り口で解決しようとしているのが、Substack です。このエッセイも Substack 上で書かれています。

Substack は執筆時に有料記事か無料記事かを自由に選べ、価格設定も自由にできます。手数料率は 10% です。もし、1,000 もの人が月に 500 円払ってもいいと言えるくらいのコンテンツを書き続けられるライターであれば、45 万円の月収入になります。

しかし、なぜ今ニュースレターなのでしょうか?

ニュースレターはメルマガでしょう!?そんなの昔っからあるじゃない、、と疑問が浮かぶところです。

例えば、Medium のような注目経済で回っているモデルでは、多くのトランザクションを捌き、リアクション機能を充実させ、コンテンツとユーザーのマッチングに多くの努力を割く必要があります。

まずはユーザーに Medium に来てもらう(アプリを開いてもらう)必要があるからです。そして、ユーザーを離さないように、プラットフォーム自体が相当頑張らないといけません。

Substack はそのようなプラットフォームに来てもらう努力を諦めたといえると思います。つまり、プラットフォームにユーザーを引き止めておく努力をせず、誰もが古くから必ず持っており、毎日欠かさずチェックする**「メール」というインターフェースに任せてしまおう**、というアプローチだと考えています。

そこで浮いたリソースを、クオリティの源泉である個人ライター支援(コミュニティ運営など)につぎ込む。という戦略なのかなと私は思っています。

Substack は各ライターにフォロワーを集めてもらう代わりに、ファンのメールアドレスのリストを収集させます。メールは、

という非常にサブスクリプションに向いた、チャーンレートを低くできるアプローチです。

メールにコンテンツを投稿できれば、Medium の実装している「あとで読む」機能もほぼ実現していると言えますし、すごくエコな解決策だな〜と感じます。

ただ、Substack にはライター各々で新規顧客獲得をしなければならないだとか、そういった課題もあると思います。現状、

みたいなやり方でマーケットシェアを取っているようですが、今後の展開もすごく気になります。

TechCrunch のインタビューでは、

マッケンジー氏は、Substackが成長しても「読者との関係を自分で所有したい人々」のためのサブスクリプション製品に取り組み続けていくと言う。ベスト氏は、こうしたアプローチによって「くだらない暴言、注目、中毒性」を狙ってオンラインニュースを発行する意欲が削がれると述べている。「これは文化を創造するのに適したモデルだ」とも付け加えた。

と創業者たちが答えています。

ここで注目経済を脱却できるモデルが発明されれば、記事だけでなく、様々なクリエイターにも大きな影響を与えうると私は思います。

あとがき

このエッセイは不定期ですが、無料で開放し続けるつもりです。

自分のリサーチで得られたインサイトの共有をどんどんやっていきたいと考えています。起業家という職業柄、そういったインサイトを蓄積しておきたいですし、このエッセイがきっかけで繋がりが生まれたり議論が生まれたりするといいなと考えてます。

ご意見やご感想はご気軽にくださいね!


記事一覧を表示